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No.11 喉元過ぎても忘れるな「J牧場の存在感」

2023/02/09(木)


 「未曾有の危機」に直面する酪農ですが、その予兆はありました。口蹄疫、あぐらの和牛預託事業破綻、東日本大震災などに起因する牛不足による乳牛バブルの終息。TPP等の関税協定による乳製品の国際競争への対抗策として国が規模拡大を推し進めたこと。これによって標茶町でもクラスター事業を活用して、ロボット搾乳牛舎の建設や大型トラクターや作業機械の導入が進みました。

しかし、大規模化した施設がフル稼働する前に生産調整が始まるという政策と現実の齟齬が生じ、事業費の償還に窮する「クラスターショック」が発生しています。酪農機械メーカー各社は、クラスター事業によって売り上げを伸ばしながらも「クラスターショック」を危惧していました。乳牛の個体販売価格暴落、クラスターショック、生産抑制という負のスパイラルに決定的な追い打ちを掛けているのが、国際情勢の混乱に起因する燃料や資機材の値上がりです。これらの要因が重なって酪農経営をかつてないほどの危険水域に追い詰められています。

標茶町は豊富な牧草資源を活かした「草地型酪農」を目指すとしながら、バブルの間に飼料自給率を向上させる取組みや、家畜糞尿を効果的に利用するための設備整備等はまったく進めてきませんでした。無防備な状態の「酪農」は、いったいどこまで耐えられるのか不安です。

 そんな標茶町の酪農家の心強い味方となっている老舗肥育牧場があることを知る人は少ないでしょう。苦境に立つ酪農家に「泣き面に蜂」の出来事が昨年7月に起きました。釧路管内で乳用種の雄を中心に3万頭を飼育するS畜産が事実上倒産したことで、乳用種の雄子牛価格が限りなく「0円」に近くまで暴落したのです。

20221月期の乳用種の雄子牛価格は平均106千円でした。これに対して2023年同期の平均は36千円となっていますが、そもそも買い手が付かない場合が多く、この平均価格は参考になりません。

J牧場は、町内の酪農家との間に乳用種の雄子牛価格について生体1㎏あたりの単価契約を結んでいます。「ただ」あるいは「ただ同然」となった乳用種の雄子牛が酪農家の貴重な副収入になっています。契約しているとはいえ、バブル時には価格の高い乳牛市場に出荷されることも多かったのですが、今はすべてJ牧場が買い取っています。

現在のように圧倒的な買い手市場にあっても酪農家の利益を削らない理由は、それぞれが先代から築いた信頼関係にあります。酪農家も相場に関係なく定額で余剰粗飼料をJ牧場に売却します。また、J牧場の堆肥を利用して経費を削減しています。乳用種の雄子牛の相場や肥料価格、粗飼料価格に一喜一憂することのない、地域内で必要な物を必要な人に融通し合う仕組みがそこにあります。

 酪農は、地域内にお金が残り難い「漏れバケツ経済」を象徴する業種といえます。しかし、J牧場と契約酪農家のように、地域内で経済を循環させている例があることをしっかりと検証し、足腰の強い基幹産業の仕組み築く必要があります。喉元を過ぎても忘れないうちに。