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No.16 「昆布の森牛」の話(其の1)

2023/04/28(金)

 標茶町が他の自治体と共同でブランド牛肉創出に取り組んでいます。大学や地元の高校も関わっていて、未利用の海藻・海草を牛に給与し、肉の味と食感の向上、さらには牛が発するメタンガスの削減しようという夢のある事業です。

ただ、「未利用」としている「ホンダワラ」については、家畜用飼料として従前から流通しており目新しいものではありません。乾燥粉末1㎏あたり160円~300円が相場で、殆どが北欧やフィリピン産ホンダワラが原料です。漁港などで邪魔者扱いされているホンダワラですが、家畜飼料化については生産コストの削減が難しいため「未利用」というのが現実です。

ホンダワラに限らず海藻・海草を飼料化するためには、原料費、原料を採取する漁業者の人件費と船の燃料代、乾燥に要する経費、包装など製品化に係る費用など、思った以上にコストがかかります。

また、海藻を採取する時期は、コンブの漁期と重複することから必要な量を安定的に調達するためには、買取り価格をコンブに近づけなければなりません。製品としての歩留まりは、1トンの海藻から100㎏程度であるため、家畜飼料として使用するためには膨大な量のホンダワラが必要です。

もし、標茶で乾燥から製品化までを行うとすれば輸送費もかかるため、試算してみると乾燥施設や梱包設備への投資を除いても、1㎏の単価は、500円~700円になってしまいます。これが「未利用」の理由です。

「数多の研究者が海藻・海草を飼料化することで家畜の肉質や味が向上するのではないかと考え研究してきましたが、海藻を飼料として与えることで期待される「味の向上」や「食感の向上」は確認されていません。

肉に多く含まれるイノシン酸と海藻に含まれるグルタミン酸の相乗効果は、飼料として与えることでは発揮されず、食肉に海藻粉末等を添加することによって初めて「うまみの相乗効果」とアルギン酸の保水効果による「食感の向上」が実感できるとされています。昆布締めが実に理に適った調理法であることが分かります。

一般論として、食肉の味の決め手は「脂肪の質、味、香り」であるといわれています。一方で、脂質ではなく肉そのものの味が感じられる、いわゆる「赤身」が評価を高めていることから、好みに合わせて肉の味や食感を変えられる簡易昆布締めとして、海藻粉末を活用してはどうでしょう。

標茶町の酪農に甚大な被害を与えているエゾシカは、「未利用の赤身肉」です。ニホンジカ肉による実験では、海藻粉末を添加することで嗜好性が格段にアップすることも解っています……が、この場合も昆布やホンダワラではなくワカメの粉末が最適なのだそうです。

地元の高校生が真摯に取組む事業なので、できれば「夢」のある内容であって欲しいのですが、事業計画を立てる段階でもう少し現場の意見や情報の収集が必要だと感じます。

 私が考えている海藻・海草の飼料化については、次の機会につぶやくことにします。