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No.17 「昆布の森牛」の話(其の2)

2023/05/15(月)

標茶町がブランド化を目指す「昆布の森牛」に、「健康牛」というキャッチフレーズがついています。「健康牛」の真意が何であるかは別として、ホンダワラの飼料化について肉質云々といった不確かな内容ではなく、アニマルウェルフェアや脱炭素にどう寄与するかという巨視的な目標を設定すべきであると思います。

報道発表した「肥育牛への海藻の給与によって内臓の廃棄率が下がったとのデータを得た」のは偶然ではありません。ホンダワラの主たる成分は炭水化物で、その殆どが海藻特有の多糖類で構成されています。

アルギン酸をはじめとする多糖類の作用には、「免疫賦活」「血圧抑制」「血中蛋白質清澄」等があるとされています。これが海藻飼料化の最大のメリットであり、飼養環境と併せて内臓廃棄率の低下につながったのだと推測されます。

「健康牛」に関する取り組みは、結果として業界の常識をなぞるにとどまっていますが、今からでも基幹産業の方向性を変えるような取り組みを目指せばよいと思います。

乳牛は、60か月齢、つまり5歳まで成長を続けますが、多くの乳牛が3産することなく淘汰されます。つまり5歳まで生きる乳牛は少ないのです。淘汰の主な理由は、飼養環境や栄養状態、生産による消耗等に起因する「四肢あるいは蹄の病気」、「体細胞の増加、乳房炎の発症」などです。特に体細胞の増加は、該当する頭数が多いうえ「乳質」「出荷量」「価格」に影響するので経営への影響が甚大です。

天塩町で放牧酪農を営み、日本一高い(価格)牛乳」として知られる「最高峰の牛乳」というブランド牛乳の生産牧場の悩みも、この「体細胞」でした。

放牧酪農の持つ「健康的」なイメージからする意外ともいえるこの問題の対策について相談を受けたとき、ホンダワラ類のアカモクという海藻によるメタンガス削減について、羊による給与試験を始めたばかりだったので、牛への給与試験を並行して行うことにしました。

町内の完全繋ぎ飼いの搾乳農家と、前述の牧場においてアカモクの給与試験を行い体細胞数への影響を調べました。結果、アカモクを給与したことで暑熱期における体細胞の増加が抑制された可能性を示唆する数値が得られました。給与前、給与後の比較と、前年同月との比較によるもので、今後は、アカモク以外の海藻・海草でも試験を行いたいと思っています。

体細胞の増加が抑制され、乳牛の健康寿命が伸びるとしたならその経済効果は、一産につき300万円の増収になるという試算があります。夢のある取組みになることは間違いありません。「昆布の森牛」の取組みを、健康な牛から良質の牛乳を生産するとともに「乳牛の産次数を一産増やす」に変更してはどうでしょう。

肥育牧場にとって、年間数十頭の「健康牛」販売と内臓廃棄率の減少だけではメリットが少なすぎます。ふるさと納税の獲得に寄与したとしても、生産者に恩恵がなければ生産を継続することは困難です。