トップページ > お知らせ一覧 > No.20 オソ18のこと(其の②)

No.20 オソ18のこと(其の②)

2023/07/17(月)
 標茶町には、「オソ18」以外にも牛を食べていたヒグマが存在します。

「茶安別中央牧野」(中茶安別)では、20年ほど前からヒグマによる乳牛の被害が発生していました。この牧野は、人工授精対象群のように毎日個体を確認し、同時に牧区を変える「短期輪換放牧」の牧区と、若齢牛と妊娠牛を放牧する「長期輪換放牧」の牧区(同じ牧区に長く滞在させる)で構成されています。

ヒグマによる被害は、1か月単位でしか個体を確認しない若齢牛と妊娠牛を放牧する牧区で発生していました。毎年、23頭が白骨化した状態で、あるいはヒグマが作ったと思われる土饅頭から発見されていました。

地元では、「毎年同じヒグマが一定期間居座っている」といわれていて、対策として箱罠を設置しましたが、捕獲されることなく被害が続きました。この牧区に関しては、小型ピロプラズマによる牛の健康被害も深刻で、ヒグマの被害よりも経済的損失が大きかったと思います。個体確認の間隔が長いため、重度の貧血を主症状とする小型ピロプラズマ病が進行し、手遅れになってから発見されることが常態化していました。

 まず、小型ピロプラズマ対策に転機が訪れました。北海道から小型ピロプラズマの重点対策牧場に指定され、さまざまな対策に取り組んできた標茶町育成牧場で放牧牛における小型ピロプラズマ陽性率が劇的に下がり、指定が解除されたのです。マダニの駆除、マダニの卵の孵化阻害、隔障物と林地の間に緩衝地帯を設けるなどの地道な対策が奏功したとされています。

茶安別中央牧野とNOSAIの担当獣医師が同じであったことから、ほぼ同じ対策を実施することになりました。利用者はもとより、NOSAI、標茶町育成牧場、JA、動物医薬品メーカーなどが協力し、ペルタックの装着(防虫)、バイチコール塗布(殺ダニ)、ダニレス塗布(殺ダニ&孵化阻害)、血液検査(感染状況確認)を徹底しました。牧野としても、個体確認を頻繁に行うなど、管理方法を大きく変えました。

結果として、小型ピロプラズマ病は勿論、その他の疾病も激減し経済性が大きく向上しました。何より、ヒグマの被害が皆無となりました。オソ18が暗躍する昨今、被害が発生している牧野と近いにも関わらずです。

同牧野には「主」といわれるヒグマがいるからともいわれますが、それ以前は乳牛の被害が続いていたわけで、小型ピロプラズマ対策と何らかの関係があると考えるべきです。

 小型ピロプラズマ病で重度の貧血を発症し、群れから遅れたり、倒れたりした牛を繰り返し食べたヒグマが、やがて積極的に襲うようになった。それが「オソ18」だとしたら、放牧牛の健康管理を徹底する必要があります。

人が頻繁に牧野に入ることも重要です。貧血になりやすいうえ、動きの鈍い妊娠後期の牛も放牧しない方がよいでしょう。第二、第三のオソ18を生み出してはなりません。

 放牧は魔法ではありません。人間の英知と努力が試されるシビアな飼養方法なのです。