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No.28 釧路新聞読者コラム『番茶の味』から-3

2024/07/16(火)


「牛飼いの資質」

 公共牧場の仕事は、「牛飼い」そのものです。

 牛飼いになるに当たり、特に資格は必要ありません。大切なのは、決められたことをやり通す意思の強さと、生命をいとおしむ心を持っていること。

 酪農家から預託されている乳牛は、愛玩動物と異なり経済性を優先させるべき動物です。しかし、酪農家の大切な財産ゆえ妥協や怠慢は許されません。

 それでも、事故や病気で牛を看取ることがあります。とことん手を尽くした結果に対して後悔はありませんが、やはり涙を禁じ得ません。 

泣けることも大切な資質。

(平成26年12月2日釧路新聞「番茶の味」掲載)



 標茶町が目指す「草地型酪農」は、多様な経営形態があってこそ真価を発揮します。

一方、国が推し進める大規模化は、スケールメリットの確保という点で経営形態が画一的になりがちで、ひとつ歯車が狂うと全体の均衡が崩れる危険性をはらんでいます。

そのひとつの傾向が分業化です。まず、粗飼料の収穫や調製がアウトソーシングされます。公共事業が減少する中、土木建設事業者のような異業種からの参入もあり、分業化が定着します。

標茶町育成牧場が赤字解消の切り札にしたい哺育事業はというと、「病気との闘い」であり安定的に成果を上げることが難しいので異業種が参入することはありません。

町営牧場の職員が哺育の事業化に反対した最大の要因でもあります。しかし、事故率の上昇に悩む酪農家からは、町営牧場による哺育事業を切望する声が高まり、「やるしかない」状況となりました。

平成18年春、表場長自らが設計し、手先の器用な職員を率いて突貫工事で哺育舎を完成させました。子牛が育ち易いとされる6月からの受け入れ開始に間に合わせました。

基本的な哺育技術は、JA太田の哺育センターで研修を受けました。

月に20頭ほどを受け入れ、分娩2か月前まで預かることで安定的に利用頭数を確保できる体制ができました。「病気との闘い」に戦々恐々としながらも、生き残りを賭けた挑戦が始まりました。

「春産み」の子牛から受入れたこともあり、秋までは順調に推移します。問題は、暑さに弱い乳牛が、胎児が必要とする栄養を十分に摂取しきれない夏場に妊娠後期を迎える9月、10月生まれ子牛です。この時期に生まれる子牛は、低体重の個体が多く、それは虚弱を意味します。その影響が最も出易いのが離乳期です。

標茶町育成牧場の命運を賭けた哺育事業もこの洗礼を受けます。指導機関や担当獣医師に多頭飼育に関する知見や経験を有する人材がおらず、哺育事業は早くも苦境に立たされてしまいます。

私が標茶町育成牧場に家畜係長として配属されたのは、呼吸系疾病のパンデミックやサルモネラ菌症の発生で混乱する平成19年年4月のことでした。

まず取組んだのは、哺育に限らず牧場全体の人材育成でした。職員の中には酪農経験者もいましたが、多くは標茶町育成牧場ではじめて「牛飼い」となった人たちなのです…  

つづく…