No.31 キムンカムイとサルルンカムイ~ヒグマ~
新年のご挨拶
明けましておめでとうございます
今年もどうぞよろしくお願いいたします
令和8年 元旦 類瀬 光信
キムンカムイとサルルンカムイ
2025年、北海道と東北を中心にクマによる人身被害のニュースが私たちを震撼させた。
日頃、ヒグマと距離が近い標茶町民をしても、市街地に出没して餌を漁り時に人を襲う様子は脅威でしかない。
標茶町民は、66頭の乳牛を襲ったオソ18が駆除されたことでヒグマに対する不安が払拭されたが、依然として農業被害は続いている。
そして、市街地でのヒグマ出没によって散歩や、釣り、山菜取りを躊躇する日が来るなどとは思ってもいなかった。
ヒグマは、アイヌの人々にとって神であった。キムンカムイ(山の神)として崇拝され、人間界に肉や毛皮といった恵みをもたらす位の高い神の化身と見なされてきた。
一方、人を襲うヒグマは、ウェンカムイ(悪い神)として古から区別されていたことは興味深い。
~サルルンカムイ~
明けて2026年、私のインスタグラム初投稿は、勤務する牧場で牛糞に群がるタンチョウの姿。牧場内で暮らす数家族(10羽程度)に加え周辺から50羽以上が集まる。
肥育牛の排泄物に含まれる未消化のコーンと飼料用コーンが目当てだ。
時には……もとい、恒常的に牛舎に侵入し肥育牛の餌を盗食するタンチョウが年々増えている。親から子へと確実且つ楽に餌を摂る術が継承されているのではないだろうか。
標茶町内でタンチョウに遭遇することは、特別なことではない。毎年この時期になると酪農家の庭先や牛舎周辺には「うちのツル」と呼ばれるタンチョウが飛来する。
また、中茶安別の給餌場には、100羽以上が集まる。ロケーションの良さも相まって人気の撮影スポットになっている。
湿原の神と呼ばれアイヌの人々に畏敬の念を持たれてきたタンチョウは、国の特別天然記念物に指定され今も保護されている。
~神々との共生~
神と崇められたヒグマとタンチョウは、なぜ人との距離を縮めたのか。否、縮めざるを得なかったのか。
タンチョウは、絶滅寸前の状態から手厚い保護活動によって奇跡的にその数が回復した。生息域も釧路湿原とその外環から道東以外にも広がりつつある。
保護活動以外に、「牛の餌の変化」がタンチョウの生き方を変えたという見方もある。
粗飼料が豊富な北海道でも、生産効率のよい穀物で牛を育てることがあたりまえになり、そのおこぼれを冬場の餌にすることをタンチョウが学習した。結果、牧場にタンチョウが集まり、牛糞に群がり、牛の餌を盗むようになったのではないか。
そして今まさにヒグマも生き方を変えようとしている。餌が少なくなる夏に家畜を襲い、厳しい冬に備えなければならない秋から初冬にかけてはデントコーンや果実・ゴミ箱を漁るという生き様は、自然の摂理に敵っているのかも知れない。
だがその姿は「神」と崇められた神々しさからは随分かけ離れていて悲しくなる。
ウェンカムイ(悪い神)が昔から存在したことと、サルルンカムイが高病原性鳥インフルエンザを哺乳類に媒介する可能性があることを意識して、人間側が変わって行くことがよりよい共生につながるに違いない。
寛容と不寛容の均衡が肝要なのだと思う。
