Q&A 質問-3 冬に注意したい牛の疾病とは?
問い
冬に注意したい牛の疾病とは?
答え 類瀬 光信 (酪農研究所)
注意すべき冬の病気として
(子牛の高アンモニア血症)
この夏の記録的な猛暑の影響は、現在も乳牛の疲労として蓄積していて、「乳量が戻らない」「乳房炎が頻発する」「子牛が虚弱」などの声が多数聞かれます。
そんな中、あまり馴染みのない病気ですが、致死率が高いので増えて欲しくない子牛の病気を紹介します。
子牛の下痢症にはいくつかの原因があります。大腸菌に起因する急性の下痢、原虫感染によるクリプトスポリジウム症、ウイルス感染によるロタウイルス病など、いずれも水様性の激しい下痢が主な症状です。
下痢が長引くことで脱水を起こし体液のバランスが崩れると、アシドーシスを起こし衰弱します。哺育期に水様性の下痢が3日以上続くと、繁殖の時期が遅れる程のダメージとなることも珍しくありません。
哺育センターなどでは「下痢は万病のもと」として神経を尖らせます。的確な原因究明と迅速且つ適切な手当は、まさに哺育のプロにとって腕の見せ所でもあります。
自称哺育のプロとして酪農研究所を主催する私が、昨年の冬、初めて遭遇した子牛の下痢症が「高アンモニア血症」です。
下痢自体は、さほど激しくなく、脱水症状も軽度です。強い腐敗臭を発する泡沫性の黄白色粘稠便を排泄する点が、他の下痢症との違いです。熱発がなく脱水症状も軽度なのに元気が消失します。
ミルクは飲むので、いずれ回復するかと思いきや、2~3日のうちに虚脱状態となった後、意識障害と昏睡状態を呈します。
そして、起立不能となり、のけ反り、頭を旋回させるなど脳症と思われる症状が発現すると回復の見込みはありません。
基本的に但馬系黒毛和牛の低体重子牛に多く見られる病気ということなので、搾乳農家には知られていないと思います。
稀に胎便停滞のホルスタイン種子牛でも発症するようです。私が遭遇した症例は、低体重の虚弱な交雑種子牛での集団発生でした。
時期としては、最低気温がマイナス20度を下回る日が続いた1月上旬だったので、遺伝的要因や胎便停滞が原因ではなく、寒冷に起因する消化器系の不調が腸管内での異常発酵を引き起こしたと推察します。
7月~9月、気温が高い中で妊娠後期を過ごし、11月、12月に生まれた子牛は、骨格の割に低体重の子牛が多い傾向にあります。
「高アンモニア血症」に限らず、低体重子牛は消化能力が低く、虚弱とも背中合わせであることを考えれば、妊娠後期の母牛管理、暑熱対策が重要であると改めて思います。
今朝(1月2日)も、標茶町は-21度まで冷え込みました。さらに冷え込む日が続くものと思われます。この時期定番の呼吸器系疾病、乾燥を好むサルモネラ症とともに、「高アンモニア血症」にも注意を払って欲しいと思います。
強い腐敗臭を発する泡沫性の黄白色粘稠便を発見したら、腸管内の異常発酵を疑ってください。哺乳を制限しつつ抗アンモニア剤による異常発酵解消に努めてください。
補液による栄養補給も必要です。重症の場合、高アンモニア剤を補液によって血管から投入する手もあります。